Kバレエ「NEW PIECES」: 未見のバレエ観て歩き

  • 2018.03.12 Monday
  • 01:03

 

2月末のブログで、Kバレエの新作「NEW PIECES」を

観に行くと書いたのに、その報告をしていなかった。

遅ればせながら認めておこうと思う。

 

 

当初、トリプルビルと告知されていたのに

蓋を開けたらカトルビルで、なんだか得した気分だった。

しかも4作とも日本人による振付だ。

日本人による、国内外に向けた、日本のバレエを希求する

ワタクシのようなものにとっては甚だ嬉しい限り。

 

Piano Concerto Edvard】宮尾俊太郎30分)

  形式美で気品のある作品。ただ、長いので、

 いつ終わるだろうと気になって仕方がなかった。

 振付はオーソドックスで実直、ストーリーはない。

 ダンサーたちが透明で繊細な表現をしつつ、明確に踊っていた。

 音楽はグリーグの「ピアノ協奏曲 イ短調 作品16(こちら→)。

 ピアノ独奏が素晴らしい。タイトルのEdvardは、

 ご存じグリーグのファーストネーム、エドヴァルド。

 

Thais Meditation】山本康介(7分)

 音楽はマスネの「タイスの瞑想曲」(こちら→)。ヴィオロンの音に包まれて

 パドドゥを踊るダンサー二人の佇まいが美しい(荒井祐子&宮尾俊太郎)。

 背景の星空、天から降る白い薄布──観ているこちらの想像力を喚起する。

 荒井は表現力のあるダンサーで、引き込まれた。

 英国をベースに踊り、振付をしてきた山本ならではの

 国際的正統派でありながら、日本人の情緒も吹き込んだ作品。

 

FLOW ROUTE】渡辺レイ25分)

 ダンサーにキレのある立体的な踊りを要求するコンテンポラリー作品。

 優れたダンサー 優れた振付家、とは限らないが(その逆も然り)、

 渡辺の場合は世界的コンテンポラリーダンサーにして第一級の振付家だ。

 女と男を、交じり合わない、けれど並行して流れる、

 異なる河の流れに模したコンセプトは同時代的で、違和感なく鑑賞できる。

 

 コンテンポラリーではお客が入らないとよく聞くが、

 それは振付家が力みすぎて、自己満足的な哲学を作品に投入し、

 観ている側には苦行でしかない作品が多いからだ。

(最近そういうの、それも1時間モノ、を観てしまったので、憤懣やる方ないワタクシ)

 でも【FLOW ROUTE】はそうではない。

 

「クレオパトラ」で愛らしく踊っていた矢内千夏が、

 まったく違う面を見せていたので、同じ人なのかと驚いた。

 遅沢佑介とのパドドゥが壮絶で、最後のbackward jumpupには目を奪われた。

 あれ、どうやったのだろう、もう一度見てみたい。

 音楽はすべてベートーヴェンで、「コリオラン序曲 作品62」(こちら→)

「弦楽四重奏曲 14 嬰ハ短調 作品131」より第1楽章(こちら→)

「交響曲 第7番 イ長調 作品92」より 第4楽章こちら→)

 選曲が適材適所、あたかもこの作品のために作曲されたかのようで、

 優れた振付家というのは、優れた音楽リスナー&理解者なのだと再認識。

 

死霊の恋 〜La Morte Amoureuse】熊川哲也25分)

 早くも初演から半年後の6月に「クレオパトラ」の再演が決まった熊川が、

 短い作品とはいえ、時を移さず、オリジナルなドラマチックバレエを発表した。

 彼は巧妙で賢く、いい意味で、文字通りに、抜け目がない芸術監督だ。

 創作&演出力に加え、バレエ団経営&運営のビジネス感覚がある。

 日本のバレエを変える道程の先端を走っている。

 

 それはともかく、「死霊の恋」の話。

 19世紀フランスのロマン主義作家、テオフィル・ゴーティエの

 同名の短編小説に着想を得て、熊川自身が台本を書いたという。

 ダンサーは女性ひとり(浅川紫織=高級娼婦)、

 男性ふたり(堀内将平=若き聖職者、石橋奨也=先輩聖職者)。

 若き聖職者がぼんやりと独り部屋にいるときに

 死霊で吸血鬼になった高級娼婦が出現する冒頭近くのシーンでは、

「薔薇の精」みたいだなと感じたが、それもそのはず、

 バレエ「薔薇の精」はゴーティエの同名の詩が元になっている。

「ファラオの娘」「アルミードの館」なども、元はゴーティエの小説だ。

 そもそもゴーティエはバレエの台本作家でもあり、

「ジゼル」も(共作だが)そのひとつ。

 

 熊川は「クレオパトラ」の台本を書いているときに、

 バレエ・リュスの「エジプトの夜」(クレオパトラが登場する)

 ゴーティエの「ある夜のクレオパトラ」を題材にしていることを知り、

 同作から「クレオパトラ」の台本にとある要素を取り入れている。

 そんなゴーティエとの経緯があり、「死霊の恋」も生れたという。

 

 この作品に現代人の悲哀を感じた点がある。

 先輩聖職者が若き聖職者を愛しているという設定で、

 男同士のパドドゥがあるのだ。

 聖職者の性、そしてゲイの表面化。

 熊川のひとひねりが今の時代を映している。

 音楽は哀惜こもるショパンの

「ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 作品11」より第1楽章こちら→)

 

 振付は「クレオパトラ」で度肝を抜かれたセクシャルな見せ場はなく、

 全体的にマイルドで気品があり、安らかな気持ちで鑑賞できた。

 女が男の前で両腕を上げて体をくねらせる動きは独特で、確か

「クレオパトラ」でも見たが、あれは熊川自身の女性観の表出だろうか。

 舞台美術・衣装は「クレオパトラ」で舞台装置デザインを担当した

 ダニエル・オストリング。秀逸。ワタクシ好み。

 照明デザインはやはり「クレオパトラ」の足立恒で、

 ラストが儚く悲しく美しすぎる。ワタクシ好み。

 

さて、このところ座席で嫌な目に遭っているそのワタクシだが、

座ってビックリ! 実は、今回も大変だった。人に囲まれるのは避けようと、

オーチャードホールの左端通路側を取ったら、

前の男性が煙草の臭いを強烈に発散させているではないか。

ぼさぼさの髪、くたくたのスーツ、血色の悪い顔をして、

開幕前からメモ帳を手になにやら書いていたから、

おそらくマスコミの人で、取材で観にきていると察せられた。

終演後は煙草の紫煙たちこめる編集部に戻り、

〆切迫る原稿を、灰皿に吸い殻テンコ盛りにしながら書くのだろう。

(昔、自分がそういう環境で深夜仕事をしていたからよくわかる)

渡辺レイの作品まではそんな臭いに咳き込みながら、

「臭え、くせえ、クセエ」と心で呟き鑑賞していた。

でも、インタ―ミッションから席に戻ったその人は

ロビーで思いっきり煙草を吸ってきたのだろう、

ますます強い臭いを纏って帰ってきたのだ。こりゃだめだ!

咄嗟の判断で、ドア近くに立っていた案内嬢に駆け寄るワタクシ。

「S席で、どこでもいいので、空いていたら換えてください!」

「どうかなさいましたか?」

「前の人が煙草臭くて、熊川さんの25分間、とても耐えられません」

「それは大変! 私も臭いに敏感なのでよくわかります」

彼女はそう言って姿を消し、数分後に戻り、ちょっと後ろになるが

ホール右端のS席に連れて行ってくれたのだった。

元高級娼婦のドラキュラが、愛する男の血を吸って狂おしくも美しく踊る

バレエを、「臭え、くせえ、クセエ」と呟きながら鼻を覆ってみる気はしない。

だから提案! 劇場入り口に“異臭探知機”を置き、問題ある観客を選別し、

着席前にステキな香りのシャワーを浴びせてあげたらどうでしょう。

お薦めの香りは、檸檬、柚子、シナモン、ヴァニラ、その他ハーブ類、です。

*文中、敬称略とさせていただきました* 。

 

文化村を出て渋谷駅に向かう途中、いつもの31アイスクリームショップに立ち寄った。

チョコミント&チョコ&ナッツトゥユーのスモールサイズトリプル。

 

 

 

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  • 2018.09.22 Saturday
  • 01:03
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コメント
シートのことではまたまた大変でしたね。
わたしもたばこの臭いは大嫌いなのでよくわかります。患者さんでヘビースモーカーの方と向き合って説明していると、その方の吐く息でのどがヒリヒリしてしまいます。
 エンジェルRの渋谷校に行くときにどうしてもスモーキングエリアのそばを通るでしょ?いつも息を止めて通っています。どうにかしてほしいです(笑)
  • うさぎさんのママ
  • 2018/03/14 10:34 PM
うさぎさんのママへ
そうなんです、私もあのエリアはなるべく離れて歩き、歩道橋に行きます。前を歩きタバコしてる人がいたら、走って前に出ます。煙を浴びたくないので(笑)
  • 鵺子
  • 2018/03/15 5:43 AM
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