北方領土がルーツのダンサーとオレンジの話

  • 2016.12.29 Thursday
  • 23:32

 

今月初め、NBAバレエ団の公演Stars and Stripes

日本バレエを変える』の物販イベントを終えた翌日、

鵺子は友人が経営している大山宝石(こちら→)のセールに顔を出した。

青梅市にある青梅織物工業協同組合の建物の一室を借りて開かれていたが、

冷やかしではないお客様もかなりいて、景気のいい人っているんだなぁ、

と羨ましく感じ入ってしまった。

 

 

自分も買えるものがないかと物色していたら、友人社長が

「隣の部屋がバレエスタジオで、これからレッスン始まるようだから

見学してきたら? 先生はロシア人みたいで、チャイコの新刊を見て、

著者を知ってる、と言ってたわよ」というではないか。

ロシア人? 久保綋一を知っているって?

 

訪ねていくと、背の高い端正な佇まいの中年男性が

「ぼくの知り合いに牧阿佐美バレエ団関係の人たちもいて、

久保さんも牧さんの団員だったから、彼のことは聞いている」という。

自己紹介を済ませ合い、彼がミハエルと名乗ったので

「ロシア人ですか?」と訊くと、意外な話の展開になった──

「祖父が戦前北方領土に住んでいたロシア人で、北海道に渡り、

夕張炭鉱で働いたそうです。その後函館に出て、日本人女性と結婚し、

ぼくの父が生まれました。だから父はハーフで、ぼくはクォーターです」

 

そういう彼は、ロシア人ダンサーが概ねそうであるように、頭が小さく、

細身で手足が長い。鵺子は北方領土問題に昔から関心があることも手伝って、

俄然ミハエルさんに興味を抱いた。

戦前の北方領土では、日本人とロシア人が自然に一緒に暮らし、

ロシア人も島々と北海道を当然のように行き来していたのだろう。

そんなルーツをミハエルさんという存在が体現している。

 

ミハエルさんはあっけらかんとご自分のことを話し続ける──

「祖父母は生活が苦しかったので、まだ子供だったぼくの父は

養子に出された挙句、イカ釣り船の親方のところに奉公に出されたそうです。

極寒の夜中の辛い仕事です。父は我慢して働いたそうですが、

ある年齢になると、30円の貯金を手に脱走し、東京の亀戸で暮らし、

日本人女性と結婚して、生れたのがぼくの兄、ぼく、ぼくの妹です」

 

なんという人間ドラマ! ところがまだ続きがある。ミハイルさんの父上は、

軍用機の燃料を入れるドラム缶を作って米軍に売るビジネスで大成功。

一家は横浜で贅沢三昧の裕福な生活をするようになった。

しかし90年代に日本のバブルがはじけ、一家のバブルもはじけたのだそうだ。

 

そこで鵺子はふと思った。クォーターで、横浜で羽振りを利かしていたなら、

「R・Hというクォーターの人を知りませんか? お祖父さんがイギリス人で、

お父さんがハーフで英会話の先生、わたしの友人なのですが」と訊くと、

ドンピシャリ。「彼、知っています」というではないか。

お互いに驚いてしまった。なんと世界は狭い、人の輪は繋がっている。

 

ミハイルさんは7歳からフィギュアスケートにのめり込み、

様々な種類のダンスに長け、東京シティバレエ団に所属したこともあるが、今は

武蔵小杉でバレエスタジオ「ブレス・オブ・ライフ」を主宰している(こちら→)。

渋谷スタジオもまもなくオープンするというから、ちょっと覗いてみよう。

 

さて、今年が終わってしまう前にブログに載せておきたいスウィーツがある。

ガトーオランジュという、オレンジをふんだんに使った💛型のパウンドケーキ。

可愛がっていた甥が11月に結婚し、引き出物のひとつがこのお菓子だった。

 

 

バレエの「シンデレラ」で、舞踏会に招かれた意地悪お姉さんたちに、

王子様からいただいたオレンジをシンデレラが分け与えるシーンがある。

なんでオレンジなのかといつも不思議に思っていたが、

このケーキに添えられていた説明書きで合点がいった。

 

「ギリシャ神話の全能の神・ゼウスが

家庭の女神ヘラと結婚するときに贈ったのが

あまずっぱいオレンジだといわれています。その言い伝えから、

オレンジの実と結婚のシンボルとして、大切にされてきました」

 

 披露宴から1カ月が過ぎ、妹に電話すると、嬉しそうに彼女が教えてくれた。

「二人はほんとうに仲がいいの。一生喧嘩なんかしないんじゃないかしら」

 

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  • 2018.07.06 Friday
  • 23:32
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コメント
久保紘一さんの本読んでいます。人の環境と才能は、人生ですね。ご両親の言葉が楽しいです。子供の人生、親にかなりの責任がありますね。
才能を発揮できる人生は、最高です。まだ、70ペジですが、休み中に読む楽しみです。良い本の出版お目出度うございます。写真が多く、DVDつきは、どこにも無い本です。増々のご発展と次々取材されるパワーには、圧倒されます。
  • funabashi
  • 2016/12/31 9:11 AM
新刊を読んで観てくださり、ありがとうございます。久保家の人々は特別ですね。お父様がご自分の夢を息子に託していらっしゃるのでしょう。息子さんは頑張らねばなりません。
  • 鵺子
  • 2016/12/31 11:55 PM
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このブログについて

バレエ関連書籍の出版社「チャイコ」専属エディター、鵺子が仕事、バレエ、スウィーツなどについて書いています。

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チャイコの本


NYタイムズ紙から絶賛され、
アメリカで20年踊り続けた
天才ダンサー・久保綋一の
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