NBA「海賊」: 未見のバレエ観て歩き

  • 2018.03.18 Sunday
  • 12:16

 

17日の土曜はNBAバレエ団「海賊」の初日で、

東京文化会館に出かけた。

久保綋一芸術監督の下に実現したオリジナル制作、世界初演、

それはバレエ史上だれも経験したことのない「海賊」だった。

なによりも、イギリスの詩人ジョージ・ゴードン・バイロン卿

長編叙事詩『海賊Le Corsaire)』のストーリーの流れに沿って

台本が作られているのが、文学好きの身には嬉しい。

 

 

バイロン卿のこの叙事詩は1814年に出版され、発売当日に

たちまち1万部が売れたという、200年前の大ベストセラーだった。

これを基に、バレエ「海賊」がパリで初演されたのが1856年。

以後、プティパ版、グーセフ版、セルゲーエフ版などが上演されているが、

いずれ似たり寄ったりの、当時必要とされた大衆的な娯楽に追従した内容で、

装置や衣装やダンサーや、ちょっと振付が変ったくらいの改訂版では、

もう話は分かっているから、私なんぞは見たいと思わない。

 

ところがNBAの久保綋一版は、バイロン卿の詩が内包する

人間の運命の悲哀──ひとりの男を愛してしまった、女ふたりの

心の揺れ動きや葛藤。裏を返せば、ふたりの女を愛してしまった男の

戸惑い、やるせなさがうまく描かれていて胸が痛くなった。

そんなバイロン卿の詩の精神性を“改竄”せずに、

構成上必要な変更だけが行われている──

 例えば、バイロン卿のメドーラは海賊船には乗らず、館で留守番をし、

 帰らぬコンラッドが死んだものと思い、悲痛のうちに自死をする。

 久保綋一版では、先に海に出たコンラッドを追ってメドーラも乗船し、

 海賊たちと行動を共にして悲劇的な事件に巻き込まれる──

NBAの「海賊」は、卿の言いたいところをバレエで表現し得ているのだ。

 

新たな楽曲を新垣隆が創作し、それを従来の音楽に違和感なく

繋いでいく共同作業を行った指揮者の冨田美里

新たな振付をして、既存の振付にこれまたシームレスに紡いでいった宝満直也

リアルな戦闘シーンの殺陣振付・指導をした新美智士

そうして成された彼らの仕事を、ダンサーたちが踊ることで、

古色蒼然とした古典作品に新たな命が吹き込まれた。オールニッポンの快挙。

年を重ねるごとに細かいブラッシュアップ、リタッチが行われ、

再演に再演が重なっていくことを願う。

 

6日の火曜日、公益財団法人としま未来文化財団と豊島区主催による

舞踊鑑賞講座「目白三人の会 〜3つのダンスの世界〜」を

池袋の東京芸術劇場プレイハウスで観た。

 日本舞踊: 花柳千代舞踊研究所

 現代舞踊: 芙二三枝子舞踊団

 クラシック・バレエ: 小林紀子バレエ・シアター

によるお話を聞いて実演を鑑賞するという、実に有意義なイベントだった。

ほぼ毎年開かれ、今年で第32回目となるそうだが、

師事しているバレエの先生が出演なさるので、初めて伺った次第。

 

冒頭、高野之夫区長による挨拶があったが、

2020年の春には旧区役所跡地周辺に超高層ビルが建設され、

8つの劇場を含む国際的なカルチャーゾーンが開業するとのこと。

ここ数年、東京都内では劇場の閉鎖が続いており、

バレエの公演の場所も減っているのが懸念されているので、

池袋に一気に8つの劇場というのは大変な朗報だ。

東京芸術劇場で公演することもあるNBAバレエ団にとっても然り。

 

*文中、敬称略とさせていただきました*

 

東京芸術劇場の帰りにいつもお茶するPatio de METROの

ベルギー産チョコレート・濃厚ショコラケーキとアロマ濃厚の珈琲。

 

 

 

Kバレエ「NEW PIECES」: 未見のバレエ観て歩き

  • 2018.03.12 Monday
  • 01:03

 

2月末のブログで、Kバレエの新作「NEW PIECES」を

観に行くと書いたのに、その報告をしていなかった。

遅ればせながら認めておこうと思う。

 

 

当初、トリプルビルと告知されていたのに

蓋を開けたらカトルビルで、なんだか得した気分だった。

しかも4作とも日本人による振付だ。

日本人による、国内外に向けた、日本のバレエを希求する

ワタクシのようなものにとっては甚だ嬉しい限り。

 

Piano Concerto Edvard】宮尾俊太郎30分)

  形式美で気品のある作品。ただ、長いので、

 いつ終わるだろうと気になって仕方がなかった。

 振付はオーソドックスで実直、ストーリーはない。

 ダンサーたちが透明で繊細な表現をしつつ、明確に踊っていた。

 音楽はグリーグの「ピアノ協奏曲 イ短調 作品16(こちら→)。

 ピアノ独奏が素晴らしい。タイトルのEdvardは、

 ご存じグリーグのファーストネーム、エドヴァルド。

 

Thais Meditation】山本康介(7分)

 音楽はマスネの「タイスの瞑想曲」(こちら→)。ヴィオロンの音に包まれて

 パドドゥを踊るダンサー二人の佇まいが美しい(荒井祐子&宮尾俊太郎)。

 背景の星空、天から降る白い薄布──観ているこちらの想像力を喚起する。

 荒井は表現力のあるダンサーで、引き込まれた。

 英国をベースに踊り、振付をしてきた山本ならではの

 国際的正統派でありながら、日本人の情緒も吹き込んだ作品。

 

FLOW ROUTE】渡辺レイ25分)

 ダンサーにキレのある立体的な踊りを要求するコンテンポラリー作品。

 優れたダンサー 優れた振付家、とは限らないが(その逆も然り)、

 渡辺の場合は世界的コンテンポラリーダンサーにして第一級の振付家だ。

 女と男を、交じり合わない、けれど並行して流れる、

 異なる河の流れに模したコンセプトは同時代的で、違和感なく鑑賞できる。

 

 コンテンポラリーではお客が入らないとよく聞くが、

 それは振付家が力みすぎて、自己満足的な哲学を作品に投入し、

 観ている側には苦行でしかない作品が多いからだ。

(最近そういうの、それも1時間モノ、を観てしまったので、憤懣やる方ないワタクシ)

 でも【FLOW ROUTE】はそうではない。

 

「クレオパトラ」で愛らしく踊っていた矢内千夏が、

 まったく違う面を見せていたので、同じ人なのかと驚いた。

 遅沢佑介とのパドドゥが壮絶で、最後のbackward jumpupには目を奪われた。

 あれ、どうやったのだろう、もう一度見てみたい。

 音楽はすべてベートーヴェンで、「コリオラン序曲 作品62」(こちら→)

「弦楽四重奏曲 14 嬰ハ短調 作品131」より第1楽章(こちら→)

「交響曲 第7番 イ長調 作品92」より 第4楽章こちら→)

 選曲が適材適所、あたかもこの作品のために作曲されたかのようで、

 優れた振付家というのは、優れた音楽リスナー&理解者なのだと再認識。

 

死霊の恋 〜La Morte Amoureuse】熊川哲也25分)

 早くも初演から半年後の6月に「クレオパトラ」の再演が決まった熊川が、

 短い作品とはいえ、時を移さず、オリジナルなドラマチックバレエを発表した。

 彼は巧妙で賢く、いい意味で、文字通りに、抜け目がない芸術監督だ。

 創作&演出力に加え、バレエ団経営&運営のビジネス感覚がある。

 日本のバレエを変える道程の先端を走っている。

 

 それはともかく、「死霊の恋」の話。

 19世紀フランスのロマン主義作家、テオフィル・ゴーティエの

 同名の短編小説に着想を得て、熊川自身が台本を書いたという。

 ダンサーは女性ひとり(浅川紫織=高級娼婦)、

 男性ふたり(堀内将平=若き聖職者、石橋奨也=先輩聖職者)。

 若き聖職者がぼんやりと独り部屋にいるときに

 死霊で吸血鬼になった高級娼婦が出現する冒頭近くのシーンでは、

「薔薇の精」みたいだなと感じたが、それもそのはず、

 バレエ「薔薇の精」はゴーティエの同名の詩が元になっている。

「ファラオの娘」「アルミードの館」なども、元はゴーティエの小説だ。

 そもそもゴーティエはバレエの台本作家でもあり、

「ジゼル」も(共作だが)そのひとつ。

 

 熊川は「クレオパトラ」の台本を書いているときに、

 バレエ・リュスの「エジプトの夜」(クレオパトラが登場する)

 ゴーティエの「ある夜のクレオパトラ」を題材にしていることを知り、

 同作から「クレオパトラ」の台本にとある要素を取り入れている。

 そんなゴーティエとの経緯があり、「死霊の恋」も生れたという。

 

 この作品に現代人の悲哀を感じた点がある。

 先輩聖職者が若き聖職者を愛しているという設定で、

 男同士のパドドゥがあるのだ。

 聖職者の性、そしてゲイの表面化。

 熊川のひとひねりが今の時代を映している。

 音楽は哀惜こもるショパンの

「ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 作品11」より第1楽章こちら→)

 

 振付は「クレオパトラ」で度肝を抜かれたセクシャルな見せ場はなく、

 全体的にマイルドで気品があり、安らかな気持ちで鑑賞できた。

 女が男の前で両腕を上げて体をくねらせる動きは独特で、確か

「クレオパトラ」でも見たが、あれは熊川自身の女性観の表出だろうか。

 舞台美術・衣装は「クレオパトラ」で舞台装置デザインを担当した

 ダニエル・オストリング。秀逸。ワタクシ好み。

 照明デザインはやはり「クレオパトラ」の足立恒で、

 ラストが儚く悲しく美しすぎる。ワタクシ好み。

 

さて、このところ座席で嫌な目に遭っているそのワタクシだが、

座ってビックリ! 実は、今回も大変だった。人に囲まれるのは避けようと、

オーチャードホールの左端通路側を取ったら、

前の男性が煙草の臭いを強烈に発散させているではないか。

ぼさぼさの髪、くたくたのスーツ、血色の悪い顔をして、

開幕前からメモ帳を手になにやら書いていたから、

おそらくマスコミの人で、取材で観にきていると察せられた。

終演後は煙草の紫煙たちこめる編集部に戻り、

〆切迫る原稿を、灰皿に吸い殻テンコ盛りにしながら書くのだろう。

(昔、自分がそういう環境で深夜仕事をしていたからよくわかる)

渡辺レイの作品まではそんな臭いに咳き込みながら、

「臭え、くせえ、クセエ」と心で呟き鑑賞していた。

でも、インタ―ミッションから席に戻ったその人は

ロビーで思いっきり煙草を吸ってきたのだろう、

ますます強い臭いを纏って帰ってきたのだ。こりゃだめだ!

咄嗟の判断で、ドア近くに立っていた案内嬢に駆け寄るワタクシ。

「S席で、どこでもいいので、空いていたら換えてください!」

「どうかなさいましたか?」

「前の人が煙草臭くて、熊川さんの25分間、とても耐えられません」

「それは大変! 私も臭いに敏感なのでよくわかります」

彼女はそう言って姿を消し、数分後に戻り、ちょっと後ろになるが

ホール右端のS席に連れて行ってくれたのだった。

元高級娼婦のドラキュラが、愛する男の血を吸って狂おしくも美しく踊る

バレエを、「臭え、くせえ、クセエ」と呟きながら鼻を覆ってみる気はしない。

だから提案! 劇場入り口に“異臭探知機”を置き、問題ある観客を選別し、

着席前にステキな香りのシャワーを浴びせてあげたらどうでしょう。

お薦めの香りは、檸檬、柚子、シナモン、ヴァニラ、その他ハーブ類、です。

*文中、敬称略とさせていただきました* 。

 

文化村を出て渋谷駅に向かう途中、いつもの31アイスクリームショップに立ち寄った。

チョコミント&チョコ&ナッツトゥユーのスモールサイズトリプル。

 

 

 

大盛況の『仁和寺と御室派のみほとけ』展

  • 2018.03.09 Friday
  • 23:50

 

我が家の近くにあるマンションの壁沿いに、

白梅紅梅の木が仲良しカップル然として並んでいる。

毎年2月下旬になると花をつけ、春の到来を知らせてくれる。

行きつ戻りつの道すがら、ふと立ち止まって「きれいだね」

と話しかけるのがいとうれし。

 

 

39日、あいにくの風雨で肌寒かったけれど、

春に浮かれて友人二人と連れ立って、

港区赤坂のレソト王国大使館で開催中の写真展に出かけた(今月25日迄)。

友人のひとりが写真家の真中繁夫さんと知り合いというご縁だ。

 

壁のトンガリ帽は人々が日常的に被っている。牧畜が中心産業のひとつで、上質なメリノウール製

の毛布はコートのように纏われる。昔、動物の毛皮を羽織っていた名残なのだそうだ。

 

レソト王国は南アフリカ共和国にぐるりと囲まれた内陸国で(→こちら)、

面積は九州より小さく、人口約220万人。

国内で最も低い地点(海抜1400m)が世界最高の標高に位置しているので

「天空の王国」とも呼ばれ、アフリカ南部なのに四季がはっきりしている。

牧歌的で、国立公園も自然保護区もあるこの小国の天辺で

手が届きそうなところで瞬く星々を眺め、瞑想して暮らすのはどうだろう。

バレエスタジオはないようだが、楽しそうな民族舞踊があるのだし……。

 

写真展の次は、友人たちの提案で上野まで足を延ばし

東京国立博物館・平成館の『仁和寺と御室派のみほとけ』展へ。

こちらは今月11日で終了するので、一緒に付いて来て良かった。

仁和寺は真言宗御室派の総本山だが、今回の展覧会は

平成2412月から始まった大修理事業の完了を記念したイベントで、

京都の総本山だけでなく、全国各地の御室派からも寺宝が来ている。

歴女、刀剣ガールに続き、いまは寺ガール・ブームなのだろうか、

会場は老若女々を中心に大盛況。

アベちゃん(阿部寛)主演の映画「空海」の影響もあるだろう。

 

370年ぶりの改修工事を機に、通常非公開の仁和寺観音堂が再現されている(撮影可能コーナー)

 

空海はご存じ、真言宗の開祖だが、彼は31歳だった804年に唐に渡り、

普通20年かかる密教の教えを2年で修得し、真言密教の経典を書写して

806年に「三十帖冊子」として持ち帰った。

国宝に指定されているその冊子が今回公開され、

9日に展示されていたのはそのうちの二帖だったが(撮影禁止)、

個人的には、1200年以上も前の、弘法大師の直筆に最も興味を覚えた。

一字一字丁寧に書かれた筆跡に、天才で、人格者で、叡智に富んだ人柄を偲ぶ。

残っていること自体が奇跡のお宝だ!

 

先週は、Angel Rで時々一緒になる荒木麻美さんが、

銀座のギャラリーで行われたイベント「猫町奇譚 銀座編」に

出演したのでそれも観に行った。

 

 

着物を洋服に仕立て直したファッションと、

猫がらみの文学&昭和ジャパネスク的お芝居のコラボだったが、

4歳のときからバレエを習い、いまではバレエ教師もしている麻美さんは、

絹の着物地を使ったチュチュを着て、トウシューズで踊るダンサーの役。

楚々として美しく、愛らしかった。

会場のギャラリーが、85年も前のレトロなビルの一室で、これまた風情がある。

日本人のバレエについて考える今日この頃だが、

この種のイベントにも何らかの糸口が落ちているかもしれない?

 

 

 

『ホフマン物語』: 未見のバレエ観て歩き

  • 2018.02.25 Sunday
  • 08:59

 

昨年師走から多忙続きで、エンジェルRの月20回チケットを

12月は9クラス、1月は4クラス無駄にした。

今月は意地でも完全消化しようと、1日に3クラス受ける日もある。

ストレッチ系、バー&フロア、ポアントなど、

タイプの異なるクラスを組み合わせるとそんなには疲れない。

 

 

 

レッスンを頑張った日、近くのチョコショップ「Summerbird」のベランダで

ホット・チョコレートドリンクを。外でも寒くない、春の予感の昼下がり。

 

そんな風に2月の時間は私的には有意義に過ぎていく。

舞台もよく観た。今年は未見の作品を観て知識と情報を蓄えようと、

まずは開場20周年記念の新国立劇場バレエ『ホフマン物語』に出かけた。

 

 

チャイコ刊『日本バレエを変える ─ コーイチ・クボの挑戦』に、

久保綋一さんが18歳の頃、1990年に牧阿佐美バレエ団の公演で

物凄く溌剌と踊っている写真が掲載されていて48)、

 

 

これはどういう作品なのだろう、とずっと思っていたからだ。

 

ヘンな話、そのシーン狙いで出かけたのだが、

主人公のホフマンの友人たちによる第一幕のその踊りは圧巻だった。

初日の9日は福田圭吾、井澤諒、奥村康祐がキャスティングされていて、

彼らを観ながら、いまNBAバレエ団芸術監督・久保綋一さん45

18歳のときの踊りを思い描いていた。

 

 

『ホフマン物語』は、大本の原作はドイツの幻想文学作家

E.T.A.ホフマン17761822によるもので、

彼の『大晦日の夜の冒険』『砂男』『クレスペル顧問官』

3作が翻案された戯曲で、そもそもはオペラ作品(初演1881年)なのだ。

それが英国のピーター・ダレル氏の振付・台本で1972年にバレエ化された。

日本では牧阿佐美バレエ団2002年も)と新国立劇場バレエ(初演2015年)

しか上演しておらず、それはなぜ? と思うのだが、

新国の現・舞踊芸術監督が元・牧阿佐美バレエ団の大原永子さん

ということも関係しているのかもしれない。大原さんはダレル氏が設立した

スコティッシュ・バレエでプリンシパルだったという経緯もある。

 

ストーリーは、主人公ホフマンが、悪魔に魅入られ、

次々と女性に恋をしても、そのたびに不幸になり、

老年になってもまだ女性運に恵まれず、絶望する、というもの。

わたしには内容的にちょっとピンと来なくて、

『コッペリア』(男子が騙されて人形に恋をする由)

ゲーテの『ファウスト』(老人が悪魔に人生を翻弄される由)

『白鳥の湖』(ダメ王子が女性と悪魔に弄ばれる由)

のミックスみたいというのが感想だが、ロビーで遭遇した

男性のバレエ友だちはたいそうな感動ぶりで、

「人生このかた失敗ばっかりでうだつの上がらない僕には

ホフマンの気持ちがよくわかる。大原さんだからこそ

持って来られた作品だ。3公演全部チケット買ったよ」

という具合。これは男性のためのバレエなのかもしれない。

 

でも今回のチケット購入者には、10日の10451200

劇場の舞台での団員クラスレッスンを見学できるという特典があり、

行ってきましたよ、わたくしも、ぼーっとしたねぼけ頭のままで。

 

ところがこれがとても興味深く、楽しく、参考になった。

井澤駿、奥村康祐、菅野英男、福岡雄大、小野絢子、本島美和、

米沢唯などプリンシパルの他、ソリスト、アーティストたちが

ふだんの稽古着姿でバー&フロアレッスンをするのを

客席から見ることができたのだから。

 

しかし嫌なこともあった。今回は舞台を俯瞰して観たかったので、

2階のA席真ん中をとったのだが、左隣席のご婦人が

前に乗り出し、前の席の背に両腕をのせて観ているのだ。

各幕の緞帳が上がる前、場内アナウンスで

「お客様はご自分の席の背もたれに背を付けてご覧ください。

乗り出しますと、周りのご迷惑になります」と言っているのに。

 

第一幕では我慢した。もう舞台が始まっていたからだ。

インターミッションが終わってその女性が着席すると、

幕が上がる前から前のめりになったので、言ってみた。

「あのぉ、申し上げてよろしいでしょうか? 

そういう恰好はお止めくださいとアナウンスされてますけど」

「後ろを確認したら誰もいないので迷惑にならないと思って」

「でも、わたくしの迷惑になってます。横に黒い影ができて

視界が遮られて鬱陶しくて、不愉快なんです」

それ以後、彼女は背中を背もたれに付けていた。

でも謝らない。いい大人が、何だろう。

あの恰好、トイレで頑張っている姿に似てるのに、ね。

 

嫌なことはもうひとつあった。わたしの前の人の座高が高いので、

自然に真っ直ぐ視線を送っていると舞台が見えない。

だから右に体をずらして隙間から見るようにするのだが、

そうすると右隣の席のご婦人のヘアーが臭う。加齢臭だ。

わたしは嗅覚が鋭すぎるので、もう最悪なバレエ鑑賞だった。

 

2月27日にはKバレエ・カンパニーの「New Pieces」新作トリプルビル、

3月17日にはNBAの久保綋一版「海賊」(音楽、ストーリー、振付を刷新)

を観に行くのだが、マイ・シート、大丈夫だろうか。

でも公演はすごく期待している。

なにしろ今年は日本オリジナルでも海外版でも未見のバレエを観たい。

従来の作品でも、同時代的にストーリー、音楽、振付、衣装などを

ドラスチックに変えたものを観たいと思っている。

 

 

 

ボリショイ・バレエを映画館で観る楽しみ

  • 2018.02.01 Thursday
  • 05:09

 

チャイコの翻訳書の印税報告をエージェントにするために、

次の本を作る傍ら、新年明けからずっと帳簿とにらめっこしていた。

紙の本は書店、amazon、バレエショップで売っていただき、

電子書籍はkindleオンリーでやっているが、

作品によって半年毎、一年毎と集計期間が異なり、

取次経由で書店に配本されてるのが市中在庫になっていたり、

注文が来たかと思うと、返品がごそっと来たりしているので、

何が何だかわからなくて、嫌になって、デスクを離れ、

録画してある洋画を観ては現実逃避していた日もあったが、

漸く報告を済ませたら、2018年は早1ヵ月が終わり、

もう2月になっていたという次第。

 

それでも1月はレッスンにはよく出かけたし、

映画館でバレエ映画も観た。モーリス・ベジャール・バレエ団

×東京バレエ団の『ダンシング・ベートーベン』

K-BALLET COMPANYの『クレオパトラ』

ボリショイ・バレエ団の『じゃじゃ馬ならし』

同じくボリショイの『椿姫』

ついでに、ロングランしていたトルコ映画『猫が教えてくれたこと』も観た。

イスタンブールの街で逞しく生きる猫ちゃんたちの可愛いかったこと!

 

『猫が教えてくれたこと』を観た恵比寿ガーデンシネマのロビーに掛かっていた、

出演猫デュマンのポートレイト。美食家で、お腹がすくと、高級レストランの窓を前足で叩く。

 

これまで観たバレエ映画といえばパリ・オペラ座や

英国ロイヤル・バレエ団のものが多かったが、

昨年からボリショイが頑張っていて、これがなかなか見応えがある。

ロングショット、クローズアップ、様々な角度から舞台公演が撮影され、

それがセンスよく編集されたものを大スクリーンで鑑賞するのだから、

変な話、なまの舞台よりも楽しめる点が多い。

ダンサーの顔の表情、衣装のディテール、

振りやポアントワークの細かな動きもよくわかる。

 

本番前の舞台でダンサーたちが振り確認などをしているのをバックに、

ロシア語、フランス語、英語が堪能な早口の女性司会者カーチャ・ノヴィコワが、

トライリンガルで立て板に水を流すように作品解説をし、

振付家やダンサーなどへのインタビューもこなすシーンは気が利いている。

 

『じゃじゃ馬ならし』は、ご存じシェイクスピアのドタバタ喜劇が原作で、

モンテカルロ・バレエ団の芸術監督・振付家のジャン­=クリストフ・マイヨーが、

ショスタコーヴィチの音楽を使ってボリショイのために振付した作品。

スピーディーかつスリリングでアクロバティックなダンサーたちの踊りが凄い!

衣装は現代的で、パリのファッションショーを見ているよう。

 

『椿姫』の原作はアレクサンドル・デュマ・フィスの悲恋純愛小説で、

振付はハンブルグ・バレエ団の芸術監督のジョン・ノイマイヤー、

ショパンの甘い、切ない、耳慣れた美しい調べが終始舞台に流れる。

高級娼婦マルグリットは日本でも大人気のスヴェトラーナ・ザハーロワ、

恋するブルジョワ青年アルマンにはノイマイヤーが自分のバレエ団から

連れて来たお気に入りのエドウィン・レヴァツォフ。

ちなみにこの2月にはハンブルグ・バレエ団の来日公演があり、

2,3,4日に『椿姫』が上演される。

 

好き好きではあるが、バレエを映画館で観るのは楽しい。

前列のお客の頭に邪魔されることもないし、

最前列の席でもポアントが切れることはない。

し、か、もチケットは3000円台。

舞台のS席なら20,000円を超えることもある由。

売店で買ったコーヒーやアイスクリームをいただきながら、

気楽にゆったりマイウエイで鑑賞できる。

 

『椿姫』を観たTOHOシネマズ新宿の売店で買ったBEN&JERRY'Sのチョコレートファッジ

ブラウニーのアイスクリーム。アメリカのバーモント州から輸入されていて、

表参道ヒルズにもショップがある。チョコがすごく濃厚で、私好みのリッチテイスト。

 

3月のボリショイ映画は『ジゼル』を観ることにしている。

作品としては見飽きているジゼルをあえて映画でも観るのは、

あのセルゲイ・ポルーニンがアルブレヒトを踊るからだ。

薬物、入れ墨と物議を醸した“バッドボーイ”、

英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルの座を電撃的に投げ捨て

退団したセンセーショナルな天才ダンサー、ポルーニンは

ボリショイに招かれてザハーロワと踊ることは、おそらくもうないだろう。

映画は201510月の収録だから、彼がロイヤルを離れた後、

ロシアで試行錯誤しながら今後の生き方を模索していた頃のものだ。

そんな過ぎ去りし日の彼に会えるのも、映画ならでは、なのである。

 

「黒鳥のパ・ド・ドゥ」WSに思うこと

  • 2018.01.03 Wednesday
  • 23:16

 

山の家のベランダから眺めた初日の出@07:00

 

2018年、戌年の日本はなんとか平和裡に元旦を迎えた。

三箇日は読書とTV映画三昧、そしてちょっとだけ仕事、

合間に昨年の出来事を振り返って過ごした。

昨年最悪だったのは、サンフランシスコに慰安婦像が建ったこと──

青春の数年を過ごし、第二の故郷ともいうべき街なのに、

思い出の日々を土足で踏みにじられた。もう行かない!

 

最良は、バレエについてだが、「黒鳥のパ・ド・ドゥ」の

ワークショップを受け、最後までやり通したことだ。

新横浜の「スタジオ・マーティ」(こちら→)主催のWSで、

10月に一回、11月に二回、12月に二回、計五回を土曜夜に受講。

講師は元NBAバレエ団プリンシパル同士の泊陽平さんと田澤祥子さんで、

お二人が在団中は公演を観ていたこともあり、これはなんとも贅沢な! 

すごく難しいけど、無謀にも参加したのだった。

 

Youtubeには様々な見本があり(こちら→)(こちら→)予習はできるが、

先生によるオリジナル振付になっているので、

学習&記憶障害の傾向があるこの身にはハードルが超高い。

でも一緒に受講したバレエ友だちに助けられ、教えてもらい、

さらに、生れて初めて格安レンタルスタジオで自主練を重ね、

四回目には何とか振りが入ったので、五回目のファイナルクラスで

無事、通しを二回やり遂げることができた。

 

クラス内容はスタジオと先生方の企業秘密になるので

SNSなどでの詳細説明は無論ご法度。

動画アップも著作権・肖像権の侵害になるので禁じられている。

このブログを書くにあたり、スタジオに問い合わせたところ、

自分だけの姿が映った静止画像はOKということなので、

賑やかしに、パ・ド・ドゥの楽しさを知っていただくためにも、

恥晒しではありますが、あえてここに掲載する次第。

 

(左)黒鳥オディールが王子から後ずさる(右)でも思い直してシェネで王子にアプローチ

 

振りが体に入ると、次は感情表現や性格描写もしたくなり、

自主練では、王子をたぶらかす、陰険かつ狡猾なオディールを目指した。

ある人から、「ボリショイ版には黒鳥がフクロウの娘という設定のもある」

と教えられ、それが琴線に触れたので、アタシはいけずなフクロウ・プリンセス、

お父様は夜のキング・オブ・フクロウなのよ、と成り切り演技を楽しんだ。

 

(右端から)フクロウ姫でも王子に愛されたい → 純情可憐が売りの白鳥オデットごときに彼を

 とられたくない でもそんな心の内は見せたくない だからある線まで来たら逃げちゃうアタシ

 

先生は厳しく、優しく、辛抱強く、真剣に、指導してくださった。

「とにかく、振りを早く、きちんと覚えなさい」と何度も言われた。

人見知りする私は当初コチコチだったけど、ラストクラスでは

気持ち的にも先生とコミュニケーションができていた(と思う)。

早く駆け寄り過ぎて「なんだか早く来たね」と小声で言われたら、

「う〜ん、そうなんです」と返し、

両腕サポートされてのストゥニュ後、右脚を素早くアチチュードして

キープするのを忘れ、何だっけとフリーズしていたところ、

「アチチュード、アチチュード」と耳元で囁いてくださったので、

「ここ、いつも忘れます」と呟き返す──なんだろう、この明るい余裕。

 

 (左から)またまた逃げるアタシ → でもやっぱり仲良くしてね、と戻ってきて再誘惑 

 

上記ご紹介のYoutubeはボリショイのプリンシパルたちの演技で、

あんな180度開脚ハイジャンプ、高速回転、ディープパンシェは無理だけど、

とにかくパ・ド・ドゥは、振りが入り、パートナーと目と体で

意思疎通できるようになると醍醐味がわかってくる。

 

しかしながら、泊・田澤両先生のWSは限定5名の二時間クラスで希望者が多い。

あまり書くと申込がさらに増え、倍率が高くなり、

自分が次回受けられなくなる恐れがあるので、ここで擱筆といたします。

 

3日朝、窓の外を見たら、なんと美しい雪景色!

 

 

 

映画『「ボリショイ』&暗闇に光るスマホ

  • 2017.12.14 Thursday
  • 23:02

 

ロシアが自国の芸術・文化を海外へ発信することに力を入れている。

「ロシアシーズンズ(ロシアの季節)」と銘打ったプロジェクトを立ち上げ、

日本がその第一回目の開催国になった。無論、これは昨年12月に行われた

二国間首脳会議にて、安倍首相とプーチン大統領が取り決めたことによるもので、

国際政治も絡んでいる。

 

  とまれ、今年6月から「ロシアシーズンズ ジャパン2017」の

さまざまなイベントが日本各地で行われてきた。バレエ絡みが多かったが、

サーカスや、ロックバンド、エルミタージュ美術館の傑作が披露され、

コンサート、写真展、映画鑑賞会なども開催された。

 

グランドフィナーレは東京で、

この11日にマリインスキー劇場管弦楽団によるコンサート、

12日に新作映画『ボリショイ』の上映が行われた。

 

 

 映画鑑賞の招待券を頂いたので、バレエのクラスを受けてから、

シャワーも浴びずに、TOHOシネマズ 六本木ヒルズに出かけた。

 

 トークセッションが冒頭にあり、ゲストでプロデューサーの

ドミートリー・ダヴィデンコさんが語気を強めて「ハリウッドだけでなく、

ロシアでも映画を作っています。アメリカ映画より、ロシア映画を観てください」

と本音を口にしたのが微笑ましかった。

日本でも大ヒットした、ナタリー・ポートマン主演のサイコスリラー

『ブラック・スワン』に対抗しているのかと思った次第。

 

 やはりゲストで、主演女優のひとりであるアンナ・イサーエワさんは、

ご自身もボリショイバレエ学校を優秀な成績で卒業しているので、

ナビゲーターから「映画に描かれていることはリアルですか?」と訊かれ、

「現実と映画はリアルにリンクしています。監督には大いに感謝しています」

と率直なお応えで好感が持てた。

なにしろ、独断的なキャスティングで反感を買っていた芸術監督が

男性ソリストから顔に硫酸を浴びせられるという事件が2013年に起きた、

あのボリショイなのだ。映画でもバレエ団の内幕、怨念渦巻く人間ドラマを

見ることができるのかと、期待がいや増した次第。

 

 開けてみると、いい意味で期待を裏切られた。

『ブラック・スワン』や硫酸事件のようなエグさはない。

生徒たちが切磋琢磨し、あるいは脱落していく姿が青春ドラマとして描かれ、

幸運にもバレエ団員に採用された者同士の心の揺れ、嫉妬、裏切り、

そして恋、友情が浮き彫りになっている。

 

 パ・ド・ドゥのレッスン中、男子から落とされてしまったり、

どうも息が合わないでいるシーンもあって、とても参考になった。

わたしは目下、パ・ド・ドゥのお稽古に余念がないのだ。

2014年にパリ・オペラ座のエトワールを引退したニコラ・ル・リッシュが

エトワール役で出演しているのも嬉しく懐かしい。

渋い佇まいが好きで、贔屓にしていたのだ。

 

 部外者をシャットアウトしているバレエ学校や劇場内での撮影シーンも多く、

これは貴重な情報になった。恒例のモスクワ国際バレエコンクールは

この劇場で行われるが、編集を担当した『日本バレエを変える』(チャイコ刊には

著者の久保綋一さんが16歳のときにここで踊って銀を獲ったという件があり、

劇場の外観、内部がスクリーンに映し出されたときには感慨深かった。

外国人初のボリショイ第一ソリストだった岩田守弘さんのことも脳裏に浮かんだ。

 

 バレエ学校の生徒たち(特に女子)は成長過程において体型に変化が生じると

退学を余儀なくさせられるという話を聞いているが、そのエピソードもあって、

リアルに描かれているという触れ込みだけに、キビシー! と恐れ入ってしまう。

バストもヒップも実ってはいけないのだ。

 

 子供の頃から延々と続くストイックな修業期間を終え、

晴れて有給の団員となり、バレエ団で踊り続ければ、

ロシアのダンサーたちは30代で年金生活に入れる──

これは冒頭のトークセッションで話題になったことだが、知ってはいても、

実際に関係者の口から耳にすると、なんだかな〜、日本とは大違いだな〜、

と再確認させられる。我が国のプロダンサーたちのおおかたは、

現役のときから公演の合間を縫ってバレエ教師の仕事をし、

(特に男子は希少価値だから)日本中に乱立している巷のバレエスタジオの発表会に

ゲスト出演して糊口を凌ぐ。退団後の生活は、推して知るべしだ。

 

『ボリショイ』を観ながら、もうひとつ感じ入ることがあった。

この映画には前出のアンナさんの他に、ユリアという名の

もうひとりの主人公がいるのだが、ユリアは地方の片田舎の貧しい家の娘で、

家族の暮らしを助けるためにボリショイに入団しようと努力し、志を果たす。

だが、とある事情でプリマの座を一度は断念することになってしまうのだ

(ちなみに、アンナさん演じる主人公はモスクワの富裕な家庭の娘という設定)。

 

 ロシアのダンサーが登場する映画には、この“貧困家庭”パターンが多い。

東京では秋に公開されたフランス映画『ポリーナ、私を踊る』の主人公も

ボリショイを目指すロシア人の少女で、彼女の家も貧しい。

夏に観た英・米映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』は、

キエフ国立バレエ学校、英国ロイヤル・バレエスクールを経て、

ロイヤル・バレエ団の大スターになった天才ポルーニン(こちら→)

実像に迫ったドキュメンタリーだったが、

ロシアではなくウクライナ出身の彼もやはり貧しい家庭環境にあった。

逆境を乗り越え、目標に向かうところに、才能が開花する──

常套なストーリーラインだが、これがあちらでは現実だから物語になる。

 

 翻って、日本のバレエ界を映画にするならば、それほどの貧困層はなく、

中途半端にぬくぬくした社会だから、足りない分はアルバイトで補えて、

30代で年金生活者になれるような条件のいい国立バレエ団は不在なので、

そこに入ること自体を目標にして上を目指す動機も生まれず、

踊りたいから踊れる限りは踊って暮らす、あとは野となれ山となれ──

差詰めそんな若者たちについてのストーリーになるのだろうか。

温過ぎる。締まりがない。ドラマがない。キャッチのない映画だ。

 

 余談だが、最後に言っておきたいことがある。

会場でわたしの右隣に坐っていた女性が、上映半ばからスマホをいじり始めた。

消音にしてあるのだろうが、暗闇で視野内に液晶の眩しい光があると、

煩わしくて、鬱陶しくて、映画鑑賞の邪魔になる。

1分ほど右手で右目側に壁を作って光が見えないようにしていたのだが、

なんでわたしがそんな恰好をして映画を観なくてはならないのかと頭に来て、

「ねえ、それ、光が目に痛いんだけど」と小声で伝えたら、

彼女は「ああ、すいません」と言ってにやけてからオフにした。

映画が自分のタイプじゃない、あるいは急いで連絡する必要があるのなら、

中座すればいいじゃないか。上映中でなければ怒鳴るところだ。

このバカ女、まさかバレエをやっている人じゃないでしょうね!

 

映画館を出て、ヒルズの66プラザに来ると、400個のバイブラランプで作られたクリスマスツリーが、

フィラメントの柔らかい光を揺らしながら夜のなかでたおやかに輝いていた。

 

 

 

 

松山バレエ団「白毛女」に思う

  • 2017.11.10 Friday
  • 04:37

 

9日夜、Bunkamuraオーチャードホールで松山バレエ団による

日中国交正常化45周年記念「新『白毛女』」を観た。

昔から「白毛女」のことは知っていたが、

公演を観る機会がなく、今回はどうしてもとお思い立ったのだ。

 

清水正夫・松山樹子夫妻が同名の中国映画やオペラを基に創作した

日本人によるオリジナル・グランドバレエで、初演は1955だった。

貧農の乙女が地主階級に立ち向かって苦悩の日々を重ねた末、

白髪になりながらも、世の中を変えていくというストーリーだが、

当時の資料写真で見る、主役の松山樹子さんの挑戦的かつ肉感的な

アラベスクポーズが素晴らしい。

1971年からは森下洋子さんが主役を踊っているが、

若い頃の洋子さんを私は見逃しているので、それが悔やまれる。

 

今回のバージョンは構想・構成・台本・演出・振付が

清水哲太郎氏によるもので、タイトルに「新」が付いている。

以前のバージョンを観ていないので、違いがわからないのだが、

乙女が農村の粗末な家から登場する冒頭シーンは「ジゼル」を思わせ、

大勢の白毛女たちが白い世界で踊る群舞のシーンには

やはり「ジゼル」、そして「白鳥の湖」にも通ずる美しさがある。

だが、音楽、衣装、振付、物語は西洋の物真似ではない。

それがいい。既視感がなく、新鮮に感じられるのだ。

フォーマットとしてのクラシックバレエの伝統を踏まえた、

真の意味での日本のオリジナル・バレエを観たい──

最近の私にはそういう欲求があるので、

日中友好の枠を外したとしても、これは見応えのある作品だった。

 

第二幕が始まる前に、二階のボックス席に美智子皇后陛下が現れ、

会場に拍手の嵐が起こり、対面のボックス席で報道カメラマンの

フラッシュが焚かれたのでびっくり、と同時に、

「まあ、すてき!」と感動してしまった。

清水哲太郎氏が横に坐っていた、とあとで知った。

そういえば、美智子さまも美しい“白毛女”だ。

長い間、ご苦労様でしたと申し上げたい。

 

外に出ると、東急百貨店前のクリスマスツリーが輝いていた。

私の大好きなイリュミネーションの季節の到来だ。

今年もあと2カ月を切った。

 

 

渋谷駅までの途中、いいものを観た興奮を冷ますために

オーチャードのあとでいつも入るカフェに寄り、

ココアパウダーがかかったソフトクリームをいただいた。

中国語が周囲で聞えていた。彼らもオーチャード帰りなのだろう。

 

「新・白毛女」のプログラム裏表紙の森下洋子さん&ソフトクリーム

テッドと「クレオパトラ」

  • 2017.10.15 Sunday
  • 21:59

 

我が家にテディベアが来た。

人気アメリカ映画「テッド」「テッド2」の

主役キャラクターだ。

 

テッドと「ted 2」のDVD

 

映画のテッドは縫いぐるみなのに生きていて、

お酒も飲み、マリファナも吸う中年オヤジだが、

我が家のテッドは左掌を押すと映画と同じ英語のオヤジ声で喋るだけ。

それ以外はふつうの縫いぐるみなので安心していられる。

弛んだ出っ腹、「へ」の字眉のテッドを見ていると気持ちが和む。

 

熊といえば、テディの愛称で知られる

熊川哲也さん率いるKバレエの「クレオパトラ」を観た。

電車の吊り広告で中村祥子さんが左脚を体側に沿わせて

頭の高さを超えてほぼ垂直上げしている

写真に魅せられてしまったのだ。

 

 

祥子さんの美しい肢体のせいだけではない。

Kバレエの「クレオパトラ」は

ストーリーの創作、音楽の発掘、振付、のすべてが熊川さんによる

オリジナル・世界初演・全幕作品・グランドバレエということで

ぜひともそのお手並み、出来栄え拝見という気持ちもあった。

 

席は後方エリア、ほぼ中央で、ステージ全体を臨めるS席だったが、

まず、現代アートのような斬新かつ無駄のない舞台美術に圧倒された。

「ファラオの娘」のようなお決まりのエジプト調ではないのだ。

 

古代エジプトの女王クレオパトラと

共和制ローマを形作るカエサルを始めとする政治家・軍人たちとの

愛、セックス、陰謀、殺略があやなす独自の「クレオパトラ」を

熊川哲也芸術監督がどのようにバレエで見せるのか。

観客としての興味と好奇心はひとえにそこにあった──

 

非常に演劇的で衝撃的な作品である。

それは、神秘的に妖しいイントロと、

息をのむエンディングの2シーンに顕れていると言っても過言ではない。

いい意味での“外連味(けれんみ)”が計算されているのだろう。

もしかしたら熊川さんは、この作品で全世界に向けて、

歌舞伎でいうところの“見得(みえ)”を切ったのかもしれない。

入り組んだ人間関係を観客に伝えなくてはならないので

ダンサーには、踊るだけでなく、役を演じることも強く要求されている。

私感だが、見ててもいいのかなあ、

ピーピング・トムみたいだなあ、という気持ちにさせられるほどの

めくるめく官能的な動きが振付に込められていたりもする──。

正直に言おう。

「クレオパトラ」を観て、バレエ研究における課題がひとつ増えた。

ずばり、《バレエにおけるセクシュアリティ》である。

 

願わくば、熊川版「クレオパトラ」が海外に呼ばれたり、

各国のバレエ団によって上演されるようになってもらいたい。

そのときこそが、真のメイドインジャパンのグランドバレエ誕生なのだ。

日本公演はまだまだ続く。

せっかくだから《バレエにおけるセクシュアリティ》のお勉強も兼ねて

浅川紫織さんがクレオパトラを演じる日にも観に行くつもりでいる。

 

 

NBAバレエ団「HIBARI」のパワーアップ

  • 2017.09.04 Monday
  • 14:54

 

先週末、2日土曜の昼、凄くいいものを観た。

池袋の東京芸術劇場で上演されていたNBAバレエ団の

HIBARI」だ(公演は2日と3日で計三回)。

 

 

敗戦から立ち直る日本に寄り添って歌い続けた国民歌手

美空ひばりの生涯を歌、写真、動画、ナレーション、

そしてバレエでスタイリッシュに組み立てた作品で、

2015年の初演時に好評だったが、それがさらに磨き上げられていたのだ。

 

アメリカのミュージカル、演劇、映画、バレエ界に

作品を提供し続けている大御所リン・テイラー・コーベットによる振付で、

彼女は再演にあたって細やかな手直しを施したという。

そのせいなのだろう、単なる再演ものではなく、既視感がありながら

まるで新しい作品を観ているような奇妙な錯覚にとらわれた。

 

しかしその不思議な感覚の一番大きな要素がダンサーたちの

テクニックと表現力のパワーアップにあるのは明らかだ。

新しいダンサーが増えていたし、

プリンシパル、ソリスト、アーティストとランク付けされているうち、

アーティストレベルの若手の躍進が目立つ。

これは、上のランクや、下に控えるダンサーたちに

良い意味でのコンペティティブな刺激を与えているはずだ。

バレエ団の狒度瓩保たれ、有機的に機能している証拠だろう。

 

 

振付家は、美空ひばりを研究し尽くしたうえで、

日本の芸能から得た知識を咀嚼し、

ハイセンスなバレエ・ア・ラ・ジャポンを作り上げている。

それは例えば、何でもない一枚の黒い布の使い方にも顕れており、

黒装束の男性ダンサー(皆川知宏/森田維央)を黒子に従え、

美空ひばりの切々とした歌声に包まれながら

関口祐美がソロで踊る「悲しい酒」はその代表例だ。

決して他人には見せなかったであろうひばりの心情が

バレエで具現化されていて、観る者の胸を締め付ける。

 

併演の「The River」はアルヴィン・エイリー振付、

デューク・エリントン作曲によるアメリカンバレエの傑作。

ダンサーに超高度なテクニックを要求するこの作品を

NBAが日本初演したこと自体がまず賞賛に値する。

 

 

芸術監督・久保綋一著『日本バレエを変える(チャイコ刊)

でも紹介されているが(P.130-131参照)、「The River」は

元々アメリカン・バレエ・シアター(ABT)のために1970年に作られた。

そのうちのパ・ド・ドゥ〈Giggling Rapids〉を

ミハエル・バリシニコフとナタリア・マカロヴァが踊り、

それをコロラド・バレエ団時代に久保も踊っている。

ミーシャとレスリー・ブラウン(当時ABTのソリスト)が共演した

映画「愛と喝采の日々」(1977年)でレスリーがソロ〈Vortex〉を

魅力的に踊っていたのが印象深い。

 

そんなこんなで、さてNBAダンサーたちが「The River」を

どう踊りこなすかと大いに関心があったのだが、

嬉々、溌剌として踊る彼らは、素晴らしい! の一言に尽きる。

気になっていた〈Vortex〉は勅使河原綾乃(ランクはアーティスト)だったが、

この人はこんなにシャープな踊り方をするテクニシャンだったのかと

びっくり仰天、瞠目のパフォーマンスを見せてくれた。

私感ではレスリーをはるかに超えていた。

 

BAのダンサーたちは公演を重ねるごとに進化し続けている。

彼らが日本のバレエ、いや、バレエそのものを変えていく、

そんな道筋が見えているように思うのだ。

 

(気になる座席:

友人が日曜にSS席の最前列ほぼ中央で観たというので念のために訊いてみたが、

ダンサーの足はポアントの先まで見えたとのことで安心した。そうでなくちゃ)

 

 

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このブログについて

バレエ関連書籍の出版社「チャイコ」専属エディター、鵺子が仕事、バレエ、スウィーツなどについて書いています。

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